静岡大学と浜松医科大学との統合再編の件
昨日、X(旧Twitter)を眺めていたら、静岡大学と浜松医科大学の統合再編が白紙になった、という投稿を見かけた。何時の時点の発信の投稿であるかは確認しなかった。そういえば両大学の統合は決まったはずだがその後聞かないな、と思った。興味を覚えたのでネットで検索してみた。両大学の統合は正式に白紙になった訳ではないが、事実上白紙になったのが昨年10月末のことであると分かった。この間、そのニュースを私は見ていなかった。
せっかく調べてみたので、野次馬根性で申し訳ないが、以下にまとめてみる。
静岡大学と浜松医科大学との統合協議の経緯
両大学の統合協議の大まかな経緯は次のごとくである。
2019.3.29 静岡大学と浜松医科大学間で統合を合意(1法人2大学)
2021年 静岡大学で統合慎重派の日詰学長を選出
2024.10.28 日詰学長の再選内定(次期学長候補に選定される)
2024.10.31 日詰学長が会見で統合の白紙化を言明
2024.12月 日詰学長が「1大学2校」案を提案
まず両大学の統合は2019年に両大学間で合意された。その時の当初案は「1法人2大学」だった。通常、2大学で1法人に統合するときは、元の2大学がそのまま1法人の機構の下にぶら下がる。しかしこの案だと、浜松医科大学と、浜松にキャンパスがある静岡大学の工学部、情報学部が1大学となり、その他の静岡大学の部局がもう1つの大学になる、という案だったようだ。
だから統合の当初案は、浜松の方は大学が大きくなり、静岡の方は有力学部を削られる、というもののようである。よくその案で静岡側がOKしたな、と私は思う。私が静岡大学にいたら反対しただろう。確かに医工融合は大きなビジネスであり、情報も加われば良いだろう。しかしそれでは、静岡大学側は外部資金の稼ぎ頭を失うことになり、結果として「残余物」でもう1つの大学に収まることになってしまう。実学に向けた工学と情報学部を失ったら、その後の地方国大としての静岡大学の展開は難しくなる。
2019年の合意後、静岡大学内、および静岡市の政界で統合への反対が強くなったようである。2021年の静岡大学の学長選考では統合慎重派の日詰学長が選出された。そして日詰学長の下で、統合の当初案を拒否することを静岡大学の正式決定とした。
その日詰学長が静岡大学内の学長選考において再選された。その3日後に、日詰学長は統合の白紙化を公表した。この公表には浜松側からの批判もあったが、たぶんその批判への返答として「1大学2校」案を日詰学長が提起したようである。この提起は1法人1大学2キャンパス案ということである。たぶん、浜松側が呑めないように「1大学2校」案にしたのだろう。
この経緯を見ると、後になって静岡側が当初の合意に難色を示してゴネたような格好である。が、そもそも当初案で合意するときに静岡大学側は学内でちゃんと話し合ったのかどうか、疑問が残る。静岡の政界が浜松中心であったことが影響したとかw。
静岡大学と浜松医科大学
多くの人はたぶん、浜松医科大学より静岡大学の方が大きな大学だと思っているだろう。ある意味ではその通りであるが、別の意味では異なる。両大学、それに比較のために埼玉大学に関する概要を下表にまとめた。学生数と教職員数は2024の公表数、収入は各大学の2023年度の決算書による。
表:静岡大学と浜松医科大、埼玉大学との比較
静岡大学は学部で言えば7学部であり、対しては浜松医科大学は医学部だけの大学(ただし看護を含む)である。だから上表にあるように、学生数は圧倒的に、静岡大学が浜松医科大学より大きい。
ちなみに、埼玉大学と静岡大学はともに「医学部のない複合型の国立大学」に当たる。そして表にあるように、埼玉大学は収入、学生数、教職員数のすべてで静岡大学より小さい。なお、埼玉大学は収入や教職員数の割に学生数が多い。この点は埼玉大学の法人化前からの特性である。教育負担が大きいけれども、授業料収入などは多い。埼玉大学は全国で受験者人口が増えたときに学生数を増やしたという歴史的経緯がある(典型は経済学部。そのとき教養学部は学生数増を抑えていた)。
この学生数の差にもかかわらず、教職員数では浜松医科大は静岡大学より大きい。大学病院などの施設を持つので、職員数が大きくなるのである。そして収入は浜松医科大学が静岡大学全体のちょうど2倍なのである。まあ、医科大学とはこんなものなのだ。一般に、国立の医学部1つで予算的には埼玉大学が2つ作れる。
つまり、学生数は少なくても事業規模は浜松医科大学が静岡大学よりはるかに大きい。もし両大学が当初案通りに2大学を作ったとしたら、浜松側の大学と静岡側の大学の格差は一段と大きくなる。静岡大学は地方国大に対する政府の要請に答えるのは難しくなる。もし私が静岡大学にいたらこの統合には反対すると思うのは、それ故である。
静岡県の政治の闇
1つの県の中で政治行政の中心(県庁所在地)と商業中心都市が分かれるのはよくある。群馬県の前橋と高崎、福島県の福島と郡山のように。しかしその両者が激しく相争う、という点では静岡県は目を覆うものがある。大学行政もその流れに乗ってしまうのだろうか?
そもそもであるが、静岡県の国立の医学部が、静岡大学医学部としてではなく、なぜ単科の浜松医大として設置されたのであろうか? 静岡大学に医学部を作るとすれば、医学部と附属病院は静岡市に出来たのかも知れない。浜松に別の国立大学として設置したのは、そのように働きかける政治的な運動があったのかなぁ、などと妄想してしまう。
そういえば、私が最初に教養学部長をしていたとき(2008-2012)、人文系学部長会議で、静岡大学は静岡県立大学と統合することが決まったと聞いた。しかしその何年か後に、その統合は流れたという。私が静岡大の学部長さんに伺ったところでは、いろんな面で国立と県とではシステムが違うから無理と判断した、という。だから今回の統合白紙化も既視感があった。県知事の川勝氏は浜松の静岡芸術大学の学長だったので、浜松側の意向で県立大との統合は潰れたとか、などと妄想もしてしまう。そんなことはないだろうけどw。
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