また、埼玉大学授業料引上げの件
この10/10に埼玉大学は授業料を引上げると公表した。この引上げの検討は事前に(8月に)埼玉大学は公表している。事前公表したということは実際に値上げを決めると思ったが、その通りだった。
埼玉大学以外にも電気通信大と山口大学、名古屋工業大学が授業料引き上を公表しており、九大の学長も授業料引上げを示唆している。たぶんすべての国立大学が授業料引上げを選択肢に入れているだろう。むろん引上げを回避すべきと現時点で考えている大学もある。
この6月に高等教育局長名で「今後の大学改革の方向性について」という文書(レジュメ)が出ている。さらに文科省は11/4に「国立大学法人等改革基本方針」を提示した。これらの文書では末尾で基盤的経費の確保への配慮を謳っている。おそらく各国立大学は運営費交付金の減額で基盤的経費が賄えない現状を強く訴えていたのだろう。ただ上記文書では、第5期中期目標期間(令和10-15年)に向けた検討をします、というだけであり、実際にどうなるかは読めない。「もう待てない」と見切った国立大学は授業料引上げに踏み切り始めたのだろう。
埼玉大学における引上げと減免措置
埼大の場合、授業料引上げは、学部生については次年度令和8年入学者から、院生については令和9年入学者からとなる。院生について引上げが1年遅れるのは、公表の時点で院入学が内定している学生がいるからだろう。
引上げ額は現状の20%増であり、引上げ額はどの大学も同じであるようだ。
私の関心は授業料の減免措置の拡大があるか、どの程度あるか、だった。埼大サイトの説明では、学部生については国の「高等教育の修学支援新制度」の支援対象学生となれば「授業料改定による増額分を含めて減免」とある。この表現は紛らわしいが、国の制度の対象者には国が減免してくれるはずだから、単純に、「支援対象学生となれば引上げ分は取らない」ということなのだろう。支援対象学生の比率は私には分からないが、意外と渋いなぁ、という気がした。
大学院生に対する減免措置の説明はさらに紛らわしい。たぶん国の支援対象になれば引上げ分は取らないのだと思うが、「本学独自で実施している授業料減免制度を拡充」とある。「成績優秀者の免除対象の増加や大学院生に対する免除基準の見直しを進め」とある。この書きっぷりを見ると、学部生には適用しない減免措置を既に院生には適用しており、その措置を今後拡大する、という風に読める。
念のため、埼大の令和6年度の財務諸表を見ると、その明細の箇所に「奨学費」として4億8694万円が出ている。教育経費の中では最大の支出項目である。埼大の予算規模で5億近くというのは大きいので驚いた。
奨学費として私の在職中を思い出すと、交換留学に出た学生(埼大と渡航先大学に二重に授業料を払う)に対して、埼大側の授業料相当分に奨学費を出していた(実質授業料免除)、と記憶している。ただ、その金額は、仮に100人の学生が1年交換留学に出たとしても(100人もいないと思うが)全部で5千何百万であるから、上記の奨学費よりはるかに少ない。
埼大の現状での奨学費の内訳は分からないが、仮に院生への減免措置をとっているとすれば、ほとんどが、上記の院生への支援金なのではないか?
埼大サイトが書くように、もし院生への補助をこれから増やすとすれば、埼玉大学の予算状況から考えて、その財源は(巡り巡って)授業料引上げ分から出す以外にないのではないか、と思えてならない。
引上げ分の使い途
埼大サイトによると、授業料引上げ分は「少人数・双方向型授業の拡充、AI・データサイエンスなどの社会の要請に応える教育プログラム開発、等」などの項目に使うと説明している。ただ私はこの種の説明は単なる目くらましだと思っている。確か東大は、授業料引上げ分を授業システムに使うと説明していたと思う。が、授業システムなど何れにせよ元から支出しているのだから、お金は玉突きでどこかに回るはずである。結局、収入増加にともなって増えた支出項目に使われた、と判断するしかない。その点は胡麻化されるべきではないだろう。
授業料引上げで「搾取」は生じないか?
授業料引上げが話題になるときに、もし私が在職していて全学の会議に出ていたなら、賛同が得られるとは思わぬが、私はたぶん次の質問をするだろう;「部局別の授業料の設定はしないのか?」
部局別の学生納付金の設定は私大では当たり前である。私は埼大在職中から、国立でも、文系学生の授業料は理系学生の授業料より安くてよい、と思っていた。
授業料引上げに関して、ある学生層が他の学生層を「搾取」するようなことはないかと私は懸念している。私大で部局別に学生納付金を設定しているのは、その搾取が生じないことを示すためである。
埼大での授業料引上げ分が実質的に何に使われるか(年度末集計でどの項目で支出が増えるか)は私にはまったく分からない、という前提で言うが、結果として、ある学生層(A)が負担の割に受益することが多く、別の学生層(B)が負担の割に受益しないとすれば、AはBを搾取していることになる。
仮にであるが、授業料引上げに伴って院生への奨学支出が増えたとしよう。この場合、多くを負担するのは学部生(の保護者)であるが、受益するのは院生である。また、大学院生は、数からいえば圧倒的に理系が多い。だから文系学生は相対的に搾取される側に、理系学生は搾取する側に回る可能性がある。
運営費交付金や大学独自の事業の収益をどう使うかは、大学の経営判断でよい。しかし学生納付金については、負担と受益のバランスは取らないとまずいだろう。少なくとも私が文系学生、それも院進学を考えていない学生の保護者であるとすれば、機会があれば大学に質問するように思う。私大が普通に従う部局別の学生納付金設定は、そのバランスを示す方法である。今回のような授業料引上げの場合、期末の支出を確認することで、引上げ分がどのように使われたかは見えやすい。引上げ分がバランスよく使われるかどうかは、私が学生の保護者であれば気になるところである。

























































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