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小説・教員定数の再定義(5)

 さても、件の外国語センターの件は、地域文化創成学部の学部長・副学部長、および外国語関係の教員の間だけで密かにやり取りされていたが、関係者からのメールを受け取った東松山が教員用のメーリングリストに事実経過と意見表明をすることによって学部教員の間に広まったのであった。7月19日のことであった。
 東松山から報を聞いた当時の組合委員長の城山は、その日のうちに団交による協力を約するメールを東松山に送ってきた。城山のもとには、この件の当事者である東高遠から詳細な情報がもたらされたのであった。

 次の日、7月20日になって、ことの経過を知っている教員の北中野は、この外国語センターが何のプランもない、清算事業団のような組織であることをメーリングリスト上で説明したのである。南横須賀からは、このようなやり方が不利益を一部に押し付けて他の賛成を得ようとする汚いやり方だとの非難が飛び出した。同日の夕方には、センターへの異動を求められた当事者の、複雑な意見表明も出てきたのである。既にこのとき、次の日には組合と大学当局との団交がセットされているという情報が東松山に入ってきた。
 20日の深夜にもメーリングリスト上で意見が続いた。普段は意見を控える下冬木からも、教授会の構成員が知らないうちに特定の教員を呼び出してセンターへの異動を求めるようなことがなぜできるのか、許されるのかと強い非難が飛び出してきたのである。
 20日の深夜ないし21日の早朝には東松山らにその後の情報がもたらされた。
 まず、20日付の将来計画委員長(副学部長)からの連絡として、22日木曜の12時から13時半、つまりその日の全学運営会議が始まる直前の時間に、外国語センターへの異動を求められた教員にまた招集がかかったという。22日の13時半前に確認を取った上で13時半からの全学運営会議、その後の評議会にセンター案をかける、ということであるらしい。
 それと同時に入ってきたのは、お隣の産業組織学部での経過だった。産業組織学部でも7名の教養部分属教員がおり、彼らもセンターへの異動を求められていたらしい。しかし産業組織学部では、位置づけも何もないセンターへの異動を求めるという学長のやり方に学部長が腹を立てた。そして20日の教授会の次の日の21日に、臨時教授会を招集し、学部長から異動は求めず、本人の意思に任せる、と決める予定であるという。
 産業組織学部の対応が常識ではないか? より多くの当事者のいる地域文化創成学部で、なぜこれほどのことを、臨時教授会も開かずに決めようとするのか。東松山は批判を強めて行ったのである。
 7月21日にもメーリングリスト上で意見が飛び交った。なぜこのようなことが起きたのか。センターへの異動を求められた教員は拒否して欲しい、という意見が続いたのである。
 地域文化創成学部でセンターへの異動を求められた10人のうち、5人は明確に異動を拒否していた。他の5名は異動に条件を付けていた。全学の「英語のみ8単位必修」を「1外国語8単位必修」に変えろ、そうでないと自分たちの仕事が確保されない、という趣旨であった。しかしこの条件は学長側は呑まない、と東松山は踏んでいた。「英語のみ8単位必修」は正規の手続きで既に評議会で通っており、今回の件で覆す理屈は立たないからである。
 それでも、学長側がこの条件を呑んでしまうと、センター案が実現する可能性はあったのである。
 この日、城山が委員長を勤める組合は、大学本部と交渉し、本人の意思に反してセンターに移されることはないことを学長側に確認させていた。

 そして運命の7月22日木曜となったのである。12時から地域文化創成学部で異動を求められた当事者が再び学部長・副学部長から招集を受けていた。もしそれでセンター案がまとまれば、その後の全学運営会議、ついで評議会でその案が正式承認になる可能性があった。
 22日の朝、メーリングリスト上で南横須賀が発言を続けた。わが学部が取り得る選択肢は、語学センターを受け入れるか、語学センターを蹴って多数のポスト削減を受け入れるか、である。私は、痛みを分け合う後者をとるべきだと思う、と訴えた。東松山がそれに続いた。仲間に意に沿わないことをさせて得をしようなどを考える者は、地域文化創成学部にはいないと私は信じる。そんなことをして、何の顔あって全学に対せるのか。学生に対せるのか。世間と向き合えるのか、と。それに宮本、南横須賀、東高遠、北中野、花咲らの意見が、会議が始まる昼ころまで続いたのである。
 そして既に全学運営会議が開かれている14時頃、南横須賀から、あのセンター案は幸い潰れた、との報がもたらされたのである。予想通り、学長サイドは「英語のみ8単位必修」を「1外国語8単位必修」に変えることを呑めなかった。

 かくして、この外国語センター騒動は、その後に余波を残しつつも、闇の中へと消えて行った。地域文化創成学部の面々は、仲間を売ることよりも、教員の大幅削減を自ら選びとったのである。

(続く。この記載は未来を舞台にしたフィクションであり、事実には基づきません。)

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