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国立大学の学費値上げ

 今となっては1年前のことである。2015年10月26日の日付で財政制度分科会の資料が公表された。この資料には国立大学の運営費交付金を減額し、同時に自己収入を増やし、両方の額を等しくするという将来プランが書かれていた。国立大学関係者がえらく反発したのは当然である。しかし、経営者という訳ではない私は、「そう言われてしまえばもっともだなぁ」という感想を抱いたものである。むろんこの資料で使われている数字は財務省に都合よく選択されているという説がある。それはその通りかも知れない。しかし全体のストーリーラインはよく整理されているように思った。
 ウチの大学は、上位国立大学を含めた一般の数字に比べて、実は運営費交付金への依存度は低い。実態は教育中心の大学なので、学生数が多く、したがって収入全体に占める授業料収入の比率はもともと高く、学生納付金収益と交付金の比率はそれほど違わないのである。だから、上記の財政制度分科会のプランをウチの大学単体に適用するなら、授業料を少し上げるだけで運営費交付金と学生納付金の均衡は達成される。そういう意味では、同分科会プランはそれほど脅威ではないはずである。
 しかし現実には脅威である。運営費交付金の額は大学単体ごとに決まる訳ではなく、国大全体で決まって来るだろうから、運営費交付金を多くもらっている上位大学に、ウチの大学も付き合わなければならない。

 既に多くの大学関係者が、国立大学の財政苦境の解決法は学費の値上げであることを理解している。だからと言っておいそれとは口にできない。口にすることはババを引くようなものだからである。文部科学省も、学費値上げを促したくても、学費値上げの旗は振らない。あくまで国立大学が自身の判断で値上げを決断することを促すだろう。だから学費値上げにたどり着くことはなかなか難しい。当面できることは国立大学がそれぞれに「貧乏物語」を語ることを通して、値上げ止む無しの世論を作ることくらいだろう。
 もし値上げとなればウチの大学は相対的により潤う。もともと運営費交付金の依存度は低いので、交付金減額率の負の効果は小さい。学生数が予算規模の割に大きいので、収入の増は相対的に大きいはずである。外部資金が取れていないのは、自業自得なので論じても仕方がない。
 その理屈は分かっているので、財政難に応じた基本組織の変化を本気で考える人はあまりいない。学費値上げまでどうやって凌ぐかの問題であると、多くの人が思っている。

 仮に学費値上げになると、どのような変化が生じるだろうか?

 第1に、学費の値上げで生じた余裕は、学生サーヴィスにつながる項目に使うことをハッキリ公表する(その通りにする)ことになるだろう。学費を上げただけの効果が支払者に還元されることを明示しない限り、学費値上げはできない。学費を値上げしてその分を、例えば研究費に使いますとはまず言えない。
 第2に、大学にしても文科省にしても、授業料本体の値上げは小さく見せたいので、授業料の値上げ分のある程度を設備費や施設利用費といった Tuition 以外の fee として徴収することになるだろう。feeについて言えば他の使用はできない。
 第3に、分野別の授業料設定は必然になるだろう。一律に授業料を上げると文系では私大との差がなくなる。理系であれば授業料を上げてなお、私大に比べればかなり安いのである。理系の値上げ分は設備費や教材費といったfeeの設定で吸収できるかも知れない。
 第4に、国立大が学費を値上げするとすれば、豊かでない学生用の奨学金(ないし授業料免除枠)をかなり大きく設定することになるだろう。私大の場合、授業料の実質値下げを授業料免除枠の拡大という形で実施すると思う。その場合、授業料免除適用者は「大学が確保したいタイプの学生」になるものと思う。が、国立の場合は、その建前からすれば、出身家庭の所得の低い層に授業料免除を適用するのが主にならざるを得ないだろう。
 第5に、一番つらい問題は、学費の値上げによって国立大の受験市場における優遇が当然ながら浸食されることは避けられない。今、国立大文系に生じている苦労が、理系にも及んで来ると言った方がよいかも知れない。その影響がどれほどかは、何とも言えない。
 最後に、学費を上げてなおも客を確保するためには、それ相当の付加価値の約束をせざるを得なくなる。問題は、ウチの大学の場合、その準備が他の国立大学より何周か遅れをとっていることである。

 単純にいってしまえば、学費を値上げすることの効果は、国立大が構造的に私大に近づくことだろう。それでなおかつ存在意義を主張することは、国立の上位大学にとっては可能であろうが、地方国立大には辛いかも知れない。

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