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H25年度採択の改革強化プラン

 埼玉大学は平成25年度の国立大学改革強化推進事業に採択された.それ以後しばらくの埼大の運営はこの時に採択された改革強化プランが基本になっている.私の結論を先に言うなら,その時点で出すべき改革プランは,第1に,学士課程への投資を厚くするべきだったろう.第2に,埼玉大学が今後力を入れるべき事項を明示するため,新学部の設置を目指すべきだったろう.

 この改革強化プランはH24年度のうちに作成されたと思う.H24年度の末には噂は流れてきたが,私を含め,教養学部の平の教授会構成員には詳細は分からなかった.具体的な案を教授会資料で目にしたのはH25年度に入ってからか,早くてもH24年度末だったように思う.
 このプランの概念図(ポンチ絵)は,当初,曼陀羅のように複雑に見えた.だから多くの教員は自分に関係する箇所だけを眺め,「大変だ」と思うものの,全体については何の考えも抱かなかっただろう.私もポンチ絵の全体まで眺めるには時間を要した.
 全体を眺めて第1に私に浮かんだ感想は「面倒な案を作ってくれたな」ということである.次に思ったのは,「随分と安上がりに案を作ったな」ということだった.
 何が「安上がり」か? この強化プランは,新たに考案したというより,よく見ると既にどこかにあったアイディアを寄せ集めたものだからである.例えば経済学部と教養学部を合併させるという考えは,表には出ないが以前からあった.ただ,このプランでは,両学部をそのまま合併するというのではなく,大学院での部局化を前提に院だけで合併させている.その点は「曲玉」だったと思う.学部からの合併には何れかの段階で何処かから難色が出たのだろう(教養学部教授会は関知していない).あえて由来が分からない部分をあげるとすれば,教育学部から移動する学士100人分の学生定員を理工研に付けた点である.この点はアドリブかも知れない.

 この改革強化プランには次のような特徴があると思う.

 第1に,このプランは「早く文科省に持ってゆく」ことを優先したプランといえる.既述のように,このプランにはオリジナルのアイディアは少ない.合併して作る新研究科や理工の大括りなどの中身は関係部局に投げている.だから,調整にどれほど時間を要したかは分からぬが,骨子を作ることは簡単だったはずである.ポンチ絵を描く方が時間がかかっただろう.

 第2に,第1点に含まれているともいえるが,大学として今後の方向性を明示することなく,大学としての機能全般を高めるような作りにしたことである.この点は,悪くいえば,今後の方向性を決めるだけの企画力/決定力がなかったことを意味する.今後この点に力を入れます,そのためのこういう学部を新設します,という格好が,外から見れば分かりやすかった.

 第3に,この改革強化プランの中には,当時文科省が推奨していた事項,例えば部局を超えた学生・教員定員の移動,教員養成系学部の学生定員の縮小,部局を超えた再編,大括り,社会人学び直し等の事項のほとんどすべてを入れ込んだ格好になっていることである.そのプランの外側ではあるが,文科省が求めた,単位実質化などの教育の質的転換まで書き込んである.このプランを受け取った文科省側は,それ故に埼大の忠義を愛でたかも知れないし,「そこまでやるか」と苦笑したかも知れない.ともかく文科省の言っていたことを丸呑みした訳であるから,必勝の構えで申請したと言ってよい.

 第4に言えることは,このプランは,投資の対象がほとんど大学院であり,大学院を中心としたリサーチ・ユニバーシティを目指すようなまとめ方になっていることである.簡単に言うと「格上」の大学になることを意識したようなプランと見える.そのこと自体は結構なことである.問題があるとすれば,上位大学ですらこの予算で学士課程に投資していたその時期に,学士課程への投資がおろそかになったことである.さらに言えば,後に(人材養成・地域貢献を主とする)重点支援①を選択する結果になるのであれば(その結果はハナから予想できた),このプランの時点で重点支援①とより整合的なプランを作るべきだったろう.
 大学院をいじっても全く人の関心を集めなかったことも反省材料である.やはり世間は学部に注目する.

 第5に,このプランは全部局が強い関与をすることになるプランであったことである.それ故にまさに全学的な取り組みとしての改革であり,大学としての「本気度」を説明するのには良かったろうと思う.しかし別の観点に立てば,このプランによってすべての部局が疲れ果てる結果になり,二の矢,三の矢が継げなくなるという欠点を持っている.この時点ではこの部局に苦労してもらうが,次の機会には別の部局,ということができにくい.実際,このプランの実行を経て,各部局に余力がなくなった印象を拭えないのである.外部資金がウチの大学を素通りしていることもその結果のように思える.

 採択された他大学がこの改革強化推進補助金でどのような事業を申請していたかをざっと眺めてみよう(複数の実施大学や単科大学の例は除く).平成24年度採択では,資源学の世界的教育拠点形成(秋田大学),国際高等教育院(仮称)の設置及び学部等のグローバル化の推進(京都大学),生命科学・認知工学等の世界的な分野を伸ばすための重点支援体制を確立(大阪大学),新たな学士課程教育モデルの提起(外国人教員の採用,九州大学).平成25年度では,埼玉大学の他,医療系学部群の亥鼻キャンパス整備(千葉大学),「リスク共生学」に基づく教育研究拠点の形成(横浜国大),ターゲット・アジア人材育成拠点の構築(静岡大学).平成26年度では,国際食資源学院(仮称)の設置(北大),高大接続時から学部・大学院まで一貫した教養教育プログラム(東北大),“よりグローバルでよりタフな”人材の育成(東大),「科学技術イノベーション研究科(仮称)」・「国際人間科学部(仮称)」の設置(神戸大学),「高等教育開発推進機構」の設置(岡山大),「生物資源産業学部(仮称)」設置・理工学部への改組(徳島大学),「地域協働学部」の設置(高知大学).平成27年度では,「データサイエンス学部」の設置・大学間連携(滋賀大学),といったところである.
 いくつか感想を述べれば,第1に,埼玉大学が大学としての機能全般を上げますというプランであったのに対し,他大学の採択プランは,強化すべき領域を特定していることである.新たな組織の設置は当該大学の今後の方向性を表現するものといえる.第2に,旧帝のような上位大学ですら,学士課程への投資を行っていることである.新たに設置するのも,研究科より学部が多い.

 結論を繰り返すなら,平成25年度の段階で,埼玉大学は第1に学士課程への投資をより明確にするべきだったろう.私大を含め,各大学が学士課程に投資している中で,埼玉大学は単位の締め付け(それも重要ではあるが)をする以外に,教育内容を豊かにする投資はしていない.それでは学生の獲得競争に後れを取り,大学院の方も足元から細っていく.第2に,大学としての方向性を明確にし,できればそのための新学部設置の検討をするべきだったろう.他大学の新学部設置例を見れば,埼大でも十分に可能だった.大学としての方向性にはいろんなことがあり得たろうが,いずれにせよ「各部局がそれぞれ」という埼大名物の常套句を超える企画力と決定力を発揮する必要があっただろう.

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Comments

すごく立派な人がいる必要はなく,常識的にやればよいのだと思います.潜在的に,人物なら埼大にも沢山おられるでしょう.事務方を含めて.

Posted by: ブログ主 | May 11, 2017 at 08:16 AM

それに尽きると考えます。
ただ、企画力決定力ある人物は、どこにいるのでしょうか。
いないなら、何もしないほうが疲弊しない分だけよいかと。

Posted by: 埼大名物の常套句を超える企画力と決定力 | May 10, 2017 at 10:32 PM

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