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常識的な教養教育

 今年は埼大で非常勤で授業を担当している.授業をしに埼大に出向き,人に会うと,話題に出るのが教養教育の件である.今現在,全学で次年度(から?)の教養教育の方針を話し合っているという.なかなか合意に至らないような話も伺う.といっても,合意を目指している教養教育の内容は,私が退職するこの3月頃に出ていたものと基本的に変わらないようなので,私個人としてはどちらに転んでも気にはならない.埼大の教養教育は,法人化後,後退に後退を重ね,今は残骸のようになっている.
 教養教育がどうあるべきかは考え方によることであり,正解がある訳ではない.考えようによっていろんな形があり得る.いっそ教養教育は一切無しにすることも,選択肢のうちだろうと思う.
 ここで,常識的な教養教育というか,教養教育の基本形がどんなものかを確認しておくことは意味があるだろう,と思った.

 私の推測では,教養教育(ないし一般教養)は米国の大学の General Education の和訳であろう.日本の大学は,少なくとも授業システムの設計では,米国の大学を範としている.文科省が授業に関してものをいうときは,多くの場合,米国に合わせろといっているように見える.
 私は退職する半月前の3月の半ばまで,アーカンソー州立大ジョーンズボロ校(以下,ASUJと略)とのダブルディグリープログラムのプラン作りをしていた.だからASUJのGeneral Educationの構造をそれなりに調べた.ASUJは米国を代表する大学では決してないが,基本構造は米国の大学の標準に準拠しているといってよい.ASUJのGeneral Educationはアーカンソー州の規則に強く制約されていて,埼大側の科目をASUJのGeneral Educationの科目として認定してもらうのが一番面倒だったのである(他の米国大学でも同様だろう).米国における大学の教育の質保証の中で,General Educationが占める役割の大きさを実感した.
 さて,ASUJで埼大の「基盤科目+外国語科目」に相当する部分を抜き出すと次のようである.なお,下記はASUJのBachelor of Science in Interdisciplinary Studies Degree Programで学ぶ学生用の要件であり,要件はどの専攻プログラムで学ぶかによって若干変異する.しかし大まかには同じである.
 念のために説明すれば,日本と米国では,単位と授業時間の換算法はほぼ同じである.米国の大学で3単位であれば,その授業時間は,日本の大学の2単位の授業の時間の1.5倍と思えばよい.また,日本の大学の授業は1セメスター2単位の授業が標準であるのに対し,米国の授業は3単位が標準である(だから週に複数回授業をする).

 次のように,ASUJでは General Education は35単位(以上)であり,それに初年次接合科目3単位と外国語6単位が求められる.General Education の内訳は,作文(Composition),数学,自然科学(Science.数学は「自然」科学でないことに注意),Fine Arts&人文,社会科学,専攻プログラムによる指定,である.

初年次接合科目(First Year Making Connections Course) 3単位
 例:UC1013 Making Connections
General Education(計35単位)
コミュニケーション(作文)             6単位
数学 3単位
 Science                       8単位
   うちPhysical Science から4単位
    例:PHSC 1203 AND 1201 Physical Science and Laboratory
   うちLife Science から4単位
    例:BIOL 1003 AND 1001 Biological Science and Laboratory
 Fine Arts および人文科目              6単位
   うちFine Arts から3単位
   うち人文科目から3単位
 社会科学(この大学では歴史が社会科学)        9単位
   うちPOSC 2103(Introduction to United States Government)3単位必修
   歴史学以外から6単位必修
 専攻ごとの指定                   3単位
  例:COMS 1203 Oral Communication
外国語(非英語)                   6単位
合計                         44単位(以上)

 何点か補足すべきだろう.

 第1に,ASUJの上記の科目群の構成は,「大綱化」前の埼大の一般教養と酷似している.大綱化前のことを覚えている方はそう思われたろう.ASUJの上記科目の単位の合計は44単位であった.大綱化前は,埼大でも人文・社会・自然のそれぞれから3科目(当時は通年授業が標準で単位は4単位)の履修が求められたから,合計必要単位は36単位だった.それに外国語8単位を加えると,ASUJとまさに同じ,44単位になるではないか.この点は,大綱化前の日本の大学の一般教養は,米国の General Education をモデルにしていたことの証左でもある.

 第2に,米国のGeneral Educationは,普通,積極的に科目の指定を行う.「自然科学」の中から好きな科目をいくつとればよい,という訳ではない.Scienceとは異なる数学は必修であり,Physical Science(物理,化学,地学など)から実習1単位を含めて4単位履修しなければならない.Life Scienceでも実習1単位を含む4単位が必修であるから,科目の選択の幅はあるにせよ,埼大のように「自然科学の楽勝科目」がある訳ではない.教養学部生の履修パタンを見ていると,多くの学生は生物学科目か,工学の紹介科目で単位を満たしている.が,工学とScienceは別であり(日本の公務員試験でも別である),工学紹介科目でScienceに替えることはなどない(私が見た中では,イリノイ大学で,Technology科目がGeneral Educationの選択科目になっている例があった).

 第3に,米国の場合,General Education の科目は(特殊な例外科目もあるが)「専門科目」とは別種ではなく,同系列の科目だ,という点である.その点はGeneral Educationにカウントされる科目のコースナンバーに現れている.General Education の科目とは,各専門科目(生物学なら prefixは BIOL)のlower科目(ナンバーが1000番台ないし2000番台)の科目から選ばれている.要するに,「専門科目」の中の入門的授業であるに過ぎないのである.だから,非常に入門的な数学の授業であっても,MATH Department の教員がその内容を保証する形になる.当然である.

 第4に,General Educationは,卒業生が単に専攻領域の知識だけ有するのではなく,一般的な学術的知識を有するという,教育の質保証の側面が強い,という点である.だからGeneral Educationは「一般教養」と訳すよりは「一般教育」と訳するべきだろう.
 米国の大学の学士課程の原則は「深さ」,「広さ」,「相互関連」である.「深さ」は学生が必ず持つ専攻領域で一定の達成をすることに対応する.General Educationは「広さ」の表現だろう.
 General Educationとは,私の理解では,基本的な学問諸領域のessentialsを学ぶことであり,それ以上ではない.人によっては,「教養」というミステリアスな知識の体系があるような妄想を抱くかも知れない.ミステリアスな知識の体系があるとすれば,人が一生を通じて形成して行くものであり,4年間の学士課程で得られるはずはない事柄である.

 ここで描いてみたのは「常識的な教養教育」の姿であった.むろん教養教育がどのようであるべきかは,考え方による.
 また,30-40単位程度の教養教育部分だけを取り出して,これに合わせろとか,採用しろなどとは,いうべきではない.教養教育がどうあるべきかは,学士課程全体の設計にかかわる問題だからである.その学士課程がどうあるべきかは,同時に大学院を含めた教育プログラム全体を論じなければ答えは出せない.
 こうした問題について,私が答えを出せる訳はないが,いくつかの考慮点を,この後に論じてみたい気もする.

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