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大学の授業料は実質値下げになっていく?

コロナ禍での学生支援

 私の家には埼大のニューズレターが時折送られてくる.ざっと眺めて埼大の最近の状況を把握するのによい.コロナ禍以降は困窮学生に対して支援金を出すとか,学食で安い食事を提供するといった大学側の試みが紹介されているのが目立つ.むろん結構なことである.同様の学生支援は全国の国公私立大学で行われているように思う.いろんな大学が,OBなどからの寄附を募って困窮学生への支援を行っている.
 実は私は,コロナ禍に対応した,こうした学生への補助的支援が,これほど長く続くとは思わなかった.コロナ禍が当初の想定より長く続くのと同様に,大学のコロナ禍支援も思ったより長く続いている.素朴な疑問として,これ,ずっとやるんだろうか?と思ってしまう.コロナ禍がキッパリと終わる,その区切りはハッキリするとは限らない.だから,止めるタイミングを見つけるのは難しい気もする.
 そういうと冷たく映ると思うが,困窮者への支援は社会政策であり,大学は研究教育機関であって社会政策のための機関ではない.だから大学が困窮学生に行うというよりは,国なり自治体が学生と否とにかかわらず行うべきことではないのか,と思う.はっきりいって,大学周辺にも,学生以上に,食事に事欠いている児童は実は結構いるだろう.私の住所付近には困窮児童の例がよくあるらしく,篤志家的に何とかしようとしている商工会議所の方もおられる.

学生確保の競争という背景

 ただ,大学がこうした学生支援を行うのは,単にコロナ禍だから生じていることではないかも知れない,と思うこともある.
 学生に対して大学が財政的補助をすることは,学生側が払う授業料からキックバックすることと見ることができる.キックバック分があるということは,形式的に授業料は同じでも,実質的に授業料を(その学生に対して)値下げしていると見てもよいだろう.
 確か2000年より少し前,国立大学の法人化が決まる頃のことと思う.埼大の政策科学系の先生が当時の経済企画庁で教育経済学の研究会に参加しておられた.その先生から立ち話で聞いたことなのだが,教育市場が競争的であれば,大学の授業料は3~4割り下がるというシミュレーション結果だったという.そのシミュレーションがどういう前提で計算したものか,設置基準も緩和する前提だったのかは分からない.が,原理的には,市場が競争的であれば大学の授業料は下がるということだったようだ.
 大学は文科省による護送船団方式のままであり,今も競争的ではない.例えば文科省は設置基準によって参入障壁を作っており,海外大学の参入をブロックしている.コロナ禍でもオンライン授業による単位数の規制を緩和しない.もしオンライン授業の規制を緩和すれば,例えば海外大学が日本で大きなキャンパスを持たなくても日本の大学市場に参入しやすくなるだろう.
 という訳で授業料が安くなることはないのであるが,現下の受験者人口の減少の中では大学間の競争は生じて来る.だから授業料を低くする誘因は存在するだろう.
 比較的最近,私大の中には独自の奨学金(ないし授業料減免)の拡充を謳う動きがあった.対象者は低所得層の中で成績が良い学生であったと思う.大学の出口で実績を出そうとすれば,良い教育をするよりも優秀な学生を確保する方が早い.だから出来る学生に給付を与えるのは合理的である.その支援の金額分を全員の授業料の引き下げに使っても目立った引き下げにはならないから,ターゲットを絞って財政支援をするのは賢い.しかし,金額は小さいが,こうした措置は平均的には授業料を安くする方向の措置なのである.
 
学生支援の拡大はあるのか?

 コロナ禍は学生への大学による財政支援を拡大するきっかけになったろう.特に,設備費などの名目で授業料以外の料金をとっている私大である.コロナで登校できず,設備も使えないのだから設備費を返せ,という運動があちこちで起きた.むろん,案の定,大学は返金には応じなかったが,代わりに若干の財政援助をする破目になった.
 国立大の場合,設備費などはとっていないから,私大のような援助をする必要もないかと思えた.が,意外といろんな国立大学が,一生懸命お金を集めて学生への支援を競った感がある.よくやったなぁ,偉い,と私は思う.
 最近起こった学生への支援は,コロナ禍が終わるとやめることになるのか,続くのか,という点は見物だろうと思う.私は続くような気がする.背景として,学生確保の競争状態に徐々に入って行くからである.
 もし背景に学生確保を巡る大学間の競争があるなら,これから,学生支援はより拡大することになると思う.大学は一生懸命に寄附を集め,あるいは大学の経費を節減して,学生支援に回す時代になるかも知れない.大学によっては教職員の給与をカットしてでも学生支援をすることになるかも知れない.(以前,キリスト教精神をもってボーナスを学生のために拠出させた大学もあった.)

あるべき姿

 どうあるべきかの私見を述べるなら,大学が個別に学生への財政支援を行うのは,程々にしておいた方がよい,と私は思う.緊急避難的な一時金の貸与・給付は常に行ってもよいが,原則として大学は社会政策を業とする機関ではないからである.そして,社会政策を個別の大学がやってしまうことは,社会の設計のあり方を曖昧にしてしまうような気がする.
 望ましいのは,経済的に苦しい学生には政府から給付型の奨学金が行き渡ることである.その財源は教育国債によるしかないだろう.だから国大協などは率先して,教育国債による下層学生への奨学金拡張を提起すべきなのだ.大学で集めたお金は教育研究事業に使うべきだろう.
 私が学生なら,100円ランチなどより,ちゃんと授業料の減免をしろよ,と思うだろう.

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創発的研究支援事業 2回目

 JSTが募集をした創発的研究支援事業の2回目の採択結果(2021年度)が先日公表された.理系の若手を対象にした事業と思う.研究者がこの事業に採択されると長期的に支援が期待できるようである.2020年度の募集の結果は以前にこのブログで取り上げた(http://takagi.air-nifty.com/conbrio/2021/02/post-642227.html).今回が2回目である.どちらも倍率が10倍程度であり,若手研究者にとっては魅力があるけれども競争は厳しい.
 この2回目の採択結果は前回1回目と同じような感じだった.

採択状況

 採択259件の所属機関の上位をあげると次の表のごとくである.採択件数が2以上の機関を表にした.

                                          表:採択件数の機関ランキング
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 採択が多い順番で1位の東大から8位の九大までは,すべて指定国立大学法人である.東大の採択数は全採択数の1割以上になる.指定国立大学法人のうち東京医科歯科大学は採択件数が2に留まっているが,単科大学なのでしかたないのだろう.もう1つの指定国立大学である一橋大は,文系大学なので採択はゼロである.
 次のグラフは機関の種別の採択数シェアを表す.指定国立大学法人の10大学だけで全体の56%を占め,指定国立大学法人以外の世界型の国立大学(法人支援類型が③)をあわせると,全採択の2/3ほどになる.私大の比重は1割に満たない.東京都立大を含めて公立大学は影が薄い.多数の地方国立大学は11%に過ぎず,全部合わせても東大に及ばない.

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                           図:機関種別ごとの採択数のシェア

なお,「他の③」:北大,広島大,千葉大,神戸大,岡山大,東京農工大,金沢大
   「研究機関」:理研,産総研など

 なお,埼玉大学は1回目の採択時と同様に1名の採択者を出している.通算で2名の採択者を出しているのは,地方国立大学としては健闘したといってよい.

日本の大学の状況の縮図

 以上は露骨な結果だった.日本の大学の状況の縮図といってよい.
 日本の命運を握る(理系の)研究面でいうと,重点化大学(現状の指定国立大学法人)は主となっており,地方国立大学のプレゼンスは残念ながら低い.
 公立大学は地域の人材育成をしている建前であるからよいのであるが,東京都立大学を含めて,研究上の存在感は低い.大阪府立大学と大阪市立大学が統合すると規模では阪大より大きくなるが,研究面では阪大に遠く及ばない,という話があったことを思い出す.公立大学と地方国立大学はある意味で似ているのかも知れない.
 私立大学は,トップの慶応,早稲田が国立の③の大学に並ぶくらいである.文系が多いこともあって,研究面での私大の存在感は学生数に比べると小さいのが現状なのだろう.

この配分でよいのか?

 この研究支援の応募要項を見ると,現状の制約の中で合理的な選考が行われているように思う.申請者の分野の専門家による面接を経ているので,お手盛りでやっている訳ではない.
 ただ,たぶん審査する側と近しい申請者が採択されている,という結果にはなっているだろう.審査に贔屓が働くことがあるのか,贔屓はなくても上位大学の申請者が受け入れられやすい自己呈示ができる,ということがあるのか? その辺は長期的な調査を経ないと分からないことのように思える.
 さらに,研究支援の資金配分をこのように「競争的」に決めるのがよいのかどうか,という点も私には分からない.例の10兆円の研究ファンド,という件で安倍政権の中で推進側だったらしい高橋洋一氏は,「選ばずにばらまけ」と何度も発言している.どのような研究が成果に繋がるかは分からないのだから,考えても仕方ない,人を選ばずにばら撒け.というのである.ばら撒くということは,以前の,運営費交付金として国立大学の研究費を配分していた,その方式に近い.実際,競争的に配分を決めて,その結果がどうなのか,果たして研究の良し悪しを事前に判定できるのもなのか,その辺が怪しいと思えば,バラマキに戻した方が結果が良いのかも知れないな,と思う.

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