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上位大学優遇は合理的なのか?

若手研究者支援における大学間格差

 このブログで最近,政府による若手研究者への経済的支援策を実施していることを書いた.具体的には,若手研究者(標準は助教クラスと思う)を対象にした創発的研究支援事業,博士後期課程学生を対象にした大学フェローシップ創出事業と次世代研究者挑戦的研究プログラムである.若手研究者を支援することは重要なことであり,まだ不十分と思うけれども,今後の日本の科学技術を補強する上で必要な措置であると評価すべきだろう.
 ただ気になったのは,これらの支援において大学間の階層性が非常に明確だったことである.上位大学がその支援資源において多くのシェアを占めている.具体的には指定国立大学法人が,創発的研究支援事業(2回目)とた大学フェローシップ創出事業で56%,次世代研究者挑戦的研究プログラムで58%のシェアを占めていた.シェアの数字がプログラム間で一貫しているので,フェアな査定をしたというより,指定国立大学法人の受け取るシェアが予め決まっているのか,という印象さえ受ける.対して地方国立大学は一貫してシェアが低い.
 例えば,次世代研究者挑戦的研究プログラムの受給対象者(予定)は,東大で600名であるが,埼大と並びになると思えるところでは,信州大が25名,群馬大が14名,島根大が12名である.埼大は申請していないようなのだが(なぜ?),信州大などの数字を見れば,埼大は取れてもせいぜい20名くらいだろう,と思う.

東大と埼大ではこんなに違う

 しかし,指定国立大学法人は当然,院生数が多い.だから院生を対象にした支援であれば受給者は自動的に増える,というだけなのかも知れない.
 そこで,東大と埼大の学生数の内訳を確認してみた.次の表である.数字は2021.5.1の数字から取った.

220124

 分かっているつもりだったが,あらためて数字を見ると埼大と東大の違いを思い知る.学部生だけからすると埼大は東大の半分近くある.東大は大大学であるから,埼大も学部生ではかなり大きな大学といえる.しかし東大の場合,院生の数は学部生数とあまり変わらない.院生率(=院生数/(学部生数+院生数)x100)で48.7%である.大学院重点化したのであるから,このくらいの数字なのだろう.対して埼大は院生数は東大の1/9であり,院生率は18.2%である.埼大でも大学院重点化ごっこはしているけれど,学部生中心の大学であることは明かなのだ.
 さらに,院生数の中で博士後期課程の学生数が占める比率(博士後期率)は,東大の場合は45.1%であり,修士/専門職課程と博士後期課程の比重はほぼ同じなのである.埼大の場合,博士後期率は18.0%であり,修士中心の大学院であることが分かる.東大の博士後期課程学生数は埼大の22.5倍である.
 ここで先述の次世代研究者挑戦的研究プログラムの受給対象者数の例に戻ろう.東大の場合,対象者数は600人だった.埼大は申請していないのであるが,申請して通れば,私の丼勘定では20人名くらいだろう,と書いた.博士後期課程学生数は東大が埼大の22.5倍であるから,学生数に比例して受給者数を決めるなら,東大が600人なら埼大は26.7人になる.つまり20よりは少し多くなるべきであるけれど,諸般の事情を考えると埼大で20人というのは仕方ない,まあフェアな数字ではないか?という気がする.
 というか,実態を考えると,埼大で20人分の枠を確保できたとすれば,東大に比べて埼大が優遇されたと考えるべきではないか?

追記:埼大の大学院重点化

 埼大では理工が田隅学長時代に大学院重点化をした.理工の先生方は大学院教授を称するようになったのである.理工で院重点化をするという話を私は加藤先生から伺った.私は,えっと思った.加藤先生の言では,大学院教授を名乗らないと理工は他と張り合えないといっている,という.私はへぇ~と,冷ややかに眺めたのを覚えている.
 国立大学が法人化する直前辺りに,10くらいの上位国立大学が院重点化を行った.そのときは予算措置がつき,当の大学は財政的に豊かになった.その後,予算は付けないけれども院重点化を称することを文科省は止めなくなった.
 後に山口先生が学長になることが決まっていた段階で,教養学部も人社研として院重点化をすることになった.山口先生も大学院重点化に思い入れがあったようであるが,私はやれやれと思ったものである.この程度の院の学生定員でよくも院重点化などといえたものだ.ただ,大学院教授と名乗ることになったことを喜ぶ同僚もいた.
 ほとんど詐欺だろう,恥ずかしくないのか,と私は思っていた.
 私が退職するときは,だから大学院人社研教授だった.どうも馴染めないなぁと思ったものである.

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次世代研究者挑戦的研究プログラム

 1つ前の記載で「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創出事業」を取り上げた。その事業は文科省が行っている。が、別途JSTが「次世代研究者挑戦的研究プログラム」というのをやっており、博士後期課程学生に対して経済的支援をしている。上位の国立大学は両方に採択されているので、支援を受ける範囲も大きいと思う。(埼大は両方に入っていないようなので、早めに対応しないとまずい。)
 少し前に「創発的研究支援事業」という話題を取り上げた。この事業は若手研究者、多くは助教クラスの研究者を対象としていたと思う。それに対し前の2つの事業は博士後期課程の学生を対象にする。だから最近、若手研究者に対してはいろいろ経済的支援をする枠組みが出来て来た、と考えるべきだろう。

次世代研究者挑戦的研究プログラム:https://www.jst.go.jp/jisedai/index.html
A日程選考結果:https://www.jst.go.jp/pr/info/info1519/pdf/info1519.pdf
B日程選考結果:https://www.jst.go.jp/pr/info/info1542/pdf/info1542.pdf

 今年度のA、Bの両日程を合わせて、支援を受ける博士後期課程の学生の総数(予定)は5,811名のようである。暇なので、1つ前の記載と同じ大学の分類で採択学生数の比率を出してみた。次の図である。

220116
 見れば分かる通り、大学種別ごとの比率の分布は「大学フェローシップ創出事業」での比率とよく似ている。ちょっと笑ってしまいますねぇ。ちなみにいうと、主として地方国立大学である「その他の国立大学」(22大学)の採択学生数が計453名なのだが、東大だけで600名なのである。しかも東大の、この切りの良い数字は何なんだ。
 1つの事業だけで見ても指定国立大学法人は厚い援助を得ているが、実は2つの事業で2重に手厚く支援されている。より詳しく見るならばさらに手厚く遇されているはずである。前の記載同様に、シラーっとするというしかない。

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大学フェローシップ創出事業

 最近、「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創出事業」という代物が文科省から出ていることを知った。博士後期課程の学生の経済的支援策の1つのようである。学生がフェローに採択されれば結構なお金が支給される。が、学生個人が文科省なり学振に申請するのではなく、学生を支援する大学を選択する格好になっている。
 フェローシップはボトムアップ型と分野指定型に分かれ、後者の分野とは情報・AI/マテリアル/量子の3つである。分野指定は明らかに理系であるが、ボトムアップ型で文系(人文・社会系)も理論上は入る。ただキャリアパスの整備が入っているので、官民の研究所勤務のある理系に比べ、文系では難しいだろう。そもそも名称からして文系学生は心理的に排除されている。
 令和3年分の採択結果が次のように載っていた。
https://www.mext.go.jp/content/20210224-mxt_kiban03-000013022_1.pdf
 採択された学生は総数で1,065名、うちボトムアップ型が36%、情報・AIが25%、マテリアルが24%、量子が14%である。たぶん、文系はほとんどいないだろう。
 採択学生数を大学種別でグラフ化したのが下図である。

220115
なお、大学種別のうち、「上位国立大学」とは支援③の国立大学を指す。「その他の国立大学」はほとんどが地方国立大学である。この前このブログに書いた「創発的研究支援事業」の大学種別によるシェアと酷似している。指定国立大学法人と国立上位大学が中身のほとんどを占めており、地方国立大学は、大学数は多いものの1大学当りの学生数は少ない。
 指定国立大学法人など、上位の国立大学の取り分は予め決まっているのではないか?と考えたくなる。またシラーっとした気分になった。

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