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国際卓越研究大学の行方

 少し前に「国際卓越研究大学」について触れた.ここではこの国際卓越研究大学の行方について,素人の私の感想,ないし予想を書いてみよう.「行方」とは2つの意味がある.1つは国際卓越研究大学がどのように規定されるか,2つ目は実際のどの大学が国際卓越研究大学になるか,である.私の予想を予め書けば,CSTI(総合科学技術・イノベーション会議)が言っていたような格好で,指定国立大学法人が中心になって,2024年度から国際卓越研究大学という制度が発足することになるだろう.

国際卓越研究大学が毒饅頭でも上位大学は食べるだろう

 国際卓越研究大学は大学にとって毒饅頭かも知れない.大学ファンドからの支援は欲しいものの,大学の体制を変えることが求められる.大学はできればその体制変更をしたくない.そこでどうなるかという問題である.だから国際卓越研究大学の制度導入には,特に左翼陣営から反対論が出ていた.
 国際卓越研究大学にCSTIが求めた事柄のうち,特に問題にすべきは次の2点であるように思う.第1は学長の上に「合議体」を置くことである.この合議体(何れ別の名称になると思う)が学長を選び,また経営方針を決めることになる.学長を中心に学内で合議(悪く言えば談合)して決定をしていた大学としては嫌であろうし,教員による学長選挙はキッパリ消えるだろうから,大学教員に根を張ってきた左翼陣営は嫌なことは間違いない.そして何れの大学でも左翼は根強い.第2は,CSTIが大学の事業規模(たぶん予算額)に年率3%程度の成長を求めたことである.委託研究費などは各大学ともかなりの成長率があると思う.しかし大学の事業予算全体の3%成長とは,大学にもよろうが,難しいだろう.また,大学独自の基金設立を求める話もある.東大の場合は東大債を発行した.が,金額的には東大としては大きいとはいえないし,どれだけの大学が同じようにできるだろうか?
 とはいえ,国際卓越研究大学になりたい上位大学は,やはり毒饅頭は食べるだろう.そう思うのは次の理由による.

合議体

 国立大学の場合でいえば,この合議体は学長選考委員会のようなものである.たぶん評議会から教員代表が,経営協議会などから馴染みの学外委員が出て構成される.だから中身は従来の学長選考委員会と変わらない.
 学長選考委員会と新たな合議体が異なるのは,合議体が経営方針まで決める点である.
 ただ,想定されている合議体が具体的な経営方針を独自に作れるかというと,たぶんできない,と私は思う.これまでも学長選考委員会では,外部委員は一言はいいたいだろうが一言いえばそこから先は事務局が出したたたき台をそのまま飲んできた.自説にこだわる動機付けは薄い.私が直接知っている埼大の学長選考委員会はそうだったし,新聞報道を見る限り東大でも同様である.お客さんとして呼ばれた外部委員は,大学に詳しい方はおられるだろうが,大学の経営方針を作るために多くの労力を投入するとは思えない.やりたくても,方針策定のための検討作業などしないだろう.経営者として呼ばれた合議体構成員が,巨額の役員報酬を得,かつ大学の成績に応じて報酬額が上下するなら別であるが,そうはならないだろう.
 つまり合議体は,大学の事務局が作成したたたき台を飲む以外の選択はないだろう.だからこれまで通りに学内で作った計画を事務局を通して合議体向けのたたき台にしてもらうことで終わるような気がする.
 合議体を作るのが嫌で国際卓越研究大学にならない,ということは生じないように私は思う.しかし合議体を作ることで,旧来の教員の談合で物事を決めるルートは,かなり細くなる.

事業成長

 政府が国際卓越研究大学に事業規模3%程度の成長を求めた箇所を見たとき,私は思わず笑ってしまった.国の経済を成長させられない政府が,どの面下げて大学に成長を求められるのか,ということである.大学が事業成長できるのは,国として成長がある場合なんじゃないの?と思った.
 という考えが正しければ,大学は事業成長をそれほど心配する必要はないのでは,という気がする.結果は国の経済成長にかかわるから,ダメなときはどの大学もダメであり,それゆえに言い訳はできるだろうからである.
 もっとも,国際卓越研究大学に申請する大学は申請時に事業成長を見込めるという事業計画を作成して提出しなければならないだろう.その事業計画を作れるのか,大学債などの発行に目途が付けられるか,その辺が一番難しいところのような気がする.

国際卓越研究大学になる大学に意外性はないだろう

 国際卓越研究大学の根拠法案が今年の5/18に成立した.その成立と同時に,共同通信と朝日新聞は手を上げる意欲のあると回答した大学名を報道した.東北大,阪大,名古屋大,東京農工大,早稲田大である.東大,京大の名前は出なかった.
 ただ,これらの大学名は一体何なんだ,というべきだろう.国際卓越研究大学は事業計画の提出を経て選定されるから,公募になるだろう.が,公募要領も出ていないのに,手を上げるも何もないのである.「詳しいことは何ともいえない」以外の返事はないではないか? 
 ただ,名前が挙がった5大学は,何れも動機づけが高そうな大学だな,と私でも思う.まず東北大,阪大,名古屋大は,その順で,東大,京大の背中が見える位置にある.だから東大,京大を抜く意欲が高いはずなのだ.私大では,早稲田より慶応の方が実力はあると思うが,早稲田はこの何年か,研究力が高いという格好にすることに意欲を示してきたように私にも見える.
 東京農工大は法人支援では世界型(③)である(私には意外だったが).それだけでも意欲は高い.ただ論文シェアでは第2グループでもなく第3グループ(埼大は第4グループ)である(埼大と同様におそらく大学の規模が小さいためだろう).だから存在感は大きくなく,現状で投資の対象にはならないような気がする.
 早稲田についてはよく分からない.
 国際卓越研究大学になる大学は,研究成果を示せるか,成長する事業計画を作れるか,ということにかかる.その2点について,指定国立大学法人は準備運動をしていたようなものであるから,指定国立大学法人を中心に国際卓越研究大学が出ることになるとしか思えない.そう見たとき,国際卓越研究大学になるのは東大,京大,東北大,阪大,名古屋大とプラスアルファ,計7,8大学ではないか,と考えるのが自然と思う.

東京農工大と埼大

 話は横道に逸れるけれども,上で触れた東京農工大と埼大を比較すると面白い.財務諸表を見ると,両大学とも予算規模は非常に近い.国からもらう運営費交付金の額もほぼ同じ(東京農工大が少し多い).違いは,授業料収入が埼大の方が多いこと.埼大は文系が多く,文系は教員数の割に学生数を抑制して設置されるので,授業料収入は埼大の方が多いことになる.しかし委託研究費は東京農工大の方がずっと多い.結果として予算規模が同じになる.
 東京農工大と埼大は同じくらいの規模の大学なのであるけれど,東京農工大は農学系と工学系だけの大学なのに対し,埼大の方は理工の規模が小さい.論文シェアで東京農工大が第3グループなのに埼大が第4グループなのは,その理系スタッフの規模の違いによるのだろう.なお埼大は,医学部を持っていれば確実に第3グループに入るだろう.
 私の先入観では,理系が多い大学はイケイケになるように思う.17大学人文系学部長会議の範囲では,徳島大学が理系が多く,結構イケイケだった.
 東京農工大は埼大が協力関係を作るのに良い相手なのかも知れない.

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