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大学に注文する前に政府にはやるべきことがある

 最近のこのブログでも繰り返し書いていることであるが,政府は大学に対して様々な期待を寄せて大学行政を試みている.単に「学校」として存在すればよかった大学に対し,社会の成長の中核であると言わんばかりの表現を政府はしている.このことは大学にとって有難いことである.期待されるということは見捨てられないことであり,今後投資の対象になることを意味するからである.
 しかし政府の期待の仕方は,見ていてヤレヤレと思う面がある.

 第1は,だから悪いという訳ではないが,従来の産業政策の手法がそのまま適用されていることである.国際卓越研究大学は,「社会変革を牽引する中核」と持ち上げられ,「知・イノベーションの創出」,「新産業の創出」,「グローバル課題の解決」などがミッションとされる.要するに大きな変革の担い手と想定されている.何となく国際卓越研究大学が,銀行で言えばメガバンクなのだろう.そして地域中核大学というのが,地方国立大学はこの類型と思うが,メガバンクよりランク下の顧客を想定しているようで,地域創生(地域の産業創出・雇用創出),地域産業の「第二創業的なイノベーション」(中小企業の代替わりで行うイノベーション)を担わせることを考えている.茨城県でいえば常陽銀行のようなものをイメージしているように見える.さらに小ぶりな地方大学が信用金庫という見立てなのだろうな,と感じる(地方国立大学が信用金庫相当かもしれないが).
 繰り返すが,だから悪いという訳ではない.でも何か,笑っちゃいますよね.

 ヤレヤレの第2は,政府の期待は,虫が良過ぎるんじゃないの,という点である.
 政府が大学に期待していることの多くは,考えてみると日本経済が成長軌道に乗るかどうかにかかっている.学術上のイノベーションであれば研究予算があればできると思うが,技術のイノベーションや新産業の創出は,経済の成長,そのための各種の規制の改革が必要だろう.例えば農業は先端のハイテク産業になる可能性を秘めると思うが,農業に企業が参入することをブロックしているようでは難しいように思う.国際卓越研究大学に事業予算の3%を政府は要求するようであり,その数字は米国のトップ大学の数字だと思うのだが,米国はちゃんと経済成長しているからその数字を出せる.規制改革をし適宜財政出動もする必要があるところをしていないのに,そんな都合のよいことを大学に一方的に求めるというのは何のこっちゃ,という気分にさせる.
 地方大学に求める地域の産業創出,雇用創出も同様である.経済成長の恩恵が地方に波及しないのに大学が頑張ってどうなることではない.
 要するに,政府は,大学に期待することをやらせる以前に,自らやるべきことがいろいろあるのに,何もしていないんじゃないの,という感想を,私は政府の文書を見ながら感じざるを得なかった.政府がまずやるべきことをやらないと,大学の方も内心は「てやんでぇ」と考えざるを得ないように思える.

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岩盤規制に回帰する大学行政

 先日(2022/7/19)の読売ニュースに「2025年以降は薬学部の新設を認めない」という文科省方針を伝える記事が載った.
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20220719-OYT1T50166/

規制改革が望ましいと思う私はヤレヤレと思った.例によって既存業界の保護のために文科省が動いたと見るべきだと思う.「薬剤師余り」があるという理由なのだが,投資する側がその通りと思えば新薬学部は自ずとできない.が,自由主義社会では,政府が許認可権で作らせないと決める話でないのである.
 この種の岩盤規制は既存業界のうちの競争力のない部分を保護するように働く.その結果として業界の代謝が行われず,イノベーションも生じにくくなり,業界全体の競争力を停滞させることになる.そういうと「新自由主義」といって批判する向きも多いのであるが,その程度のことは経済成長している自由主義国ならどこでもやっていることであり,同じような岩盤規制が社会の中に張り巡らされているから日本は経済成長できない.そして岩盤規制があることによって官庁側は保護した団体に天下り先を確保する.
 大学の岩盤規制は医学部と獣医学部で強い.安倍内閣では(医学部は既存業界が強すぎるので)獣医学部について岩盤規制を崩そうと思い,特区という仕組みを作って新設を認めさせようとした.その試みに岩盤派の既存業界と文科省が抵抗し,野党が岩盤派に味方したのが「加計問題」の本質だった.本来なら加計学園に続いて獣医学部の参入があって良いのであるが,できていないのはそれだけ抵抗が強いということなのだろう.医学部については,菅内閣が東北復興という名目で1つだけ新設を認めさせたが,その後が続かない.
 読売の記事が出た後,高橋洋一,原英史,岸博幸など改革派が,この問題を取り上げる動画をYouTubeにアップしていた.話を聞いていて「そりゃそうだよな」と思った.
 その動画には私が考えなかった論点も入っていた.第1が,薬剤師の役割が医師に都合よく制限されているので仕事も少なくなっている,という点である.いわれてみれば.米国では薬剤師がコロナワクチンの注射をしている.同じことは日本ではできなくされている.こうした規制を外していけば自ずと薬剤師の需要も多くなるのである.
 第2が,政府は業界の保護ばかりを考え(票になるからであるが),競争力のない部分の市場からの退出Exitを図らない点である.定員を充足できない薬学部は少なからずある.それらの薬学部の統合や退出を促すことをしていない.
 規制を改革し,異業種からの参入を促さないと,産業の競争力は上がらないし,新たな結合によるイノベーションも起こらない.要するに社会の活力は上がらない.日本社会のいろんな側面に同じ問題があるのだろうな,と思ってしまう.

 薬学部だけでなく,大学一般についてもいえることのように思う.もう少し動きがないと日本は沈んでいくのではないか.

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「魅力ある地方大学」は魅力的か?

国際卓越研究大学と魅力ある地方大学

 現状で国立大学に対し,政府は2つのタイプの大学像を提示しているように見える.1つは国際卓越研究大学,もう1つは地方大学(ないし地域の中核の大学)である.たぶんこの両者に属さぬ大学も想定しているとは思うが(例えば「強みのある研究大学」),「地方大学」とどう違うかは政府の出す文書でははっきりしない.国際卓越研究大学と地方大学の二択が提示されているようにも思える.骨太の方針2022を見ると,この2タイプ以外は想定していないように感じる.

 国際卓越研究大学の方の政府側規定は明瞭である.文科省や総合科学技術・イノベーション会議を見るなら,国際卓越研究大学は「社会変革を牽引する中核」であり,「知・イノベーションの創出」,「新産業の創出」,「グローバル課題の解決」などがミッションとなる.
(https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20220208-mxt_koutou01-000020496_ex1.pdf)

 対して魅力ある地方大学に期待されているのは,(地方自治体や地域の諸組織との連携を前提にすると思うが),地域創生,より明確には地域の産業創出・雇用創出ということになる.また,イノベーションについても,国際卓越研究大学に対して求めるイノベーションとはニュアンスが異なり,(地域産業の)「第二創業的なイノベーション」と明言される.「第二創業」とは「比較的規模の小さい中小企業などににおいて,新しい経営者を就任させ別の分野に進出すること」であり,国際卓越研究大学がなすべきイノベーションとは次元が異なる.
(例:https://www.mext.go.jp/content/20211020-mxt_hojinka-000018545_1.pdf)

魅力ある地方大学に人は行きたがるか?

 「魅力ある地方大学」の中身としては,中教審の大学分科会の資料が最も詳しいだろう(https://www.mext.go.jp/content/20210827-mxt_koutou01-000017637_1_2.pdf).私は何か月か前にこの文書を見て溜息が出た.確かに,米国の場合でも州トップでない州立大学はこの雰囲気なのである.だから仕方ないと思う反面,このような大学像に人は夢を抱くだろうか? 私が今,研究者志望の大学院生なら,国立とはいえ地方大学に行くよりは都会の私大に行きたいと思うだろう.私が当該地域の受験生であれば,そのような地方国立大学に行くよりはやはり都会の私大に行きたいと思うだろう.研究にしろ教育にしろ,知の価値はその中身の普遍性にあるのに,ここまで地域地域といいつつリアル過ぎる目標を突きつけられると興ざめしてしてしまう.
 人に夢を与えない構想は,できれば頓挫してもらいたい.

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埼玉大学は研究力第2グループに入れるか?

 現在,政府は国際卓越研究大学という制度を作り,日本のトップ大学に手厚い支援を行おうとしているように見える.下の方の大学への支援がどうなのかははっきりしない.しかし何れ,2番手の大学群を支援し,研究力の層の厚みを作ることを目指すようになるだろうと,私は希望的に予想している.ここで私の関心は,その2番手に埼玉大学が入れるかどうかという点である.この私的な関心について,ここでは茶飲み話的に意見を書いてみたい.

科学技術・学術政策研究所の分析

 2018年にこのブログで「国立大学の研究力」という記事を書いた(http://takagi.air-nifty.com/conbrio/2018/04/post-989c.html).この記事は文科省の科学技術・学術政策研究所が2018年3月に公表した「日本の大学システムのアウトプット構造:論文シェアに基づく大学グループ別の論文算出の詳細分析」(https://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-RM271-FullJ.pdf)を参照した.その当時,日本の研究力(理系だけだが)が低下したという議論がよくなされていた.従来は印象論で語られていた「研究力の低下」について,この報告書はかなり綿密な検討を行っていた.この研究所は良い仕事をしている.
 さらについ最近,このブログで国際卓越研究大学や総合振興パッケージについて触れた.その際に私が感じたのは,今のところ政府は国際卓越研究大学(ほとんど指定国立大学法人と重なると思うが)の支援しか考えていないのではないか,という点である.
 しかし,国際卓越研究大学や総合振興パッケージについて文科省が出している文書を眺めるうちに,おそらく国際卓越研究大学に続く大学群の育成が課題になってくると感じさせる要素もあると思った.もともと,2018年当時から,トップに続く層の厚みを作るべきという論調は一部マスコミには出ていた(つまりそのような解説者もいた)のである.
 同研究所は2021年12月1日付で「大学の研究力の現状と課題」という資料を出している(https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000148080.pdf).この資料の中には2018年3月の報告書にない分析を含んでいる.その1つが日英独の大学の比較である.

日英独の比較

 日本を英独と比較したのは適切と思う.人口でいえば英国は日本の半分強,ドイツは日本の2/3程度であり,したがってGDPでも日本の方が大国である.しかし日本を米国や中国と比較しても仕方ない.英独は日本より研究面では光っており(質の高い論文の比率では英>独>日),科学面では先進国と見なければならないだろう.そして英独ができることなら,おそらく日本にも可能であろうと思わせる面がある.
 同研究所は一貫して,世界における論文シェアで大学を第1~4グループに分けている.同じ基準で見たときのグループの該当大学数は次の表でまとめられている(この表は2018年の報告書のままであり,基にしたデータはやや古い).
 念のために書けば,日英独で短大を含めた大学進学率は6割強であり,ほぼ等しい.しかし文科省の資料(OECD比較)では,4年制大学への進学率は日本が51%,英国はやや高く63%,ドイツはやや低く42%,と出ていた.大学総数が3か国でかなり異なるけれど,人口差を勘案すると,日本の大学が平均的に規模が小さく,英国が規模が大きいのではないかと思う.

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      (「大学の研究力の現状と課題」より)


 第1グループに属する大学(日本では東大,京大,東北大,阪大)のい数は,日本と英国で同じ4であり,ドイツは1つしかない.しかし,日本と英独でかなり異なっている.日本は下に行くほど数が多く,ピラミッド型の分布になる.しかし英国やドイツは第2グループの数が多い.日本では第4グループがかなり多い(埼大も第4グループ).
 図1で第1~第4グループの大学数と大学の国別比率をグラフにした.特徴的なのはドイツであり,第2グループがかなり大きいのである.英国は日本とドイツの中間であるけれど,第2グループの比率はやはり日本より大きい.

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 図2では第4グループより下の大学を含めた大学数と大学比率をグラフ化してみた.この底辺大学は,日本だと主として文系中心の私大になるだろう.英国は底辺大学が少なく,日本とドイツは底辺大学が多いことになる.

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 ただ,日本やドイツで「底辺大学」が多いのは,大学の規模が小さいからだろう.データは大学の論文数から出しているので,規模が小さければ,研究者は優秀でも,論文数は少なくなるしかない.
 規模のこの効果は埼玉大学の状況もよく物語るだろう.埼大が第4グループに過ぎないのは,理工の規模が小さいからである.単純に,埼大に医学部があれば,それだけで第3グループになると思う.埼大が同じ規模の大学と統合すれば,パフォーマンスが同じでも,自動的に第3グループになるだろう.
 だから,大学ごとの論文数で比較するのではなく,所属研究者1人当たりの論文数でデータを出すべきだ,と思う人もいるかも知れない.旧帝大は規模が大きいから,どうしても研究量は多くなる.
 しかし,仕方ないだろう.単に人数が多いことが原因であっても,論文総数が多ければ,世の中にとってその大学の研究の存在は大きいからである.
 ここでごく自然に,「第2グループの重要性」が示唆される.同研究所の資料によれば,英国では第2グループの論文数が最も大きく,第1と第2グループの論文数は全体の8割になる.ドイツでは第2グループが大きく,第2グループだけで論文の8割を生んでいる.対して日本では,第1グループの論文数は全体の22%,第1と第2グループを足した論文数でも5割弱にとどまる.
 もう一つ注目してよいのは,同研究所の上記資料が「日本の場合、全分野の上位10大学と各分野の上位10位に入る大学の顔ぶれがほぼ固定されている。」と記載している点である.資料を見ると,特にドイツで特定分野で抜きんでている大学が多いのが目立つ.第2グループの中にはそのような大学が多い.対して日本では,大学はどの分野でも強いかどの分野でも弱くなる傾向がある,つまり両極化するため,第2グループに該当する大学数が少なくなる.
 研究が第1,第2グループに集中することが良いことか悪いことかは一概にはいえない.しかし国が特に支援する大学を限定するとすれば,第1,第2グループに集中していた方が支援はやりやすい.その点を考えると,国際卓越研究大学以外を支援するとすれば,広く浅く支援するよりは第2グループに支援を集中することになると考えるのが自然だろう.

埼玉大学は第2グループに入れるか?

 埼玉大学の経営者は,可能なら研究力の第2グループに入ることを狙うべきだろう.どのようにして可能であろうか?
 第1は大学の理系規模を大きくすることである.そのためには統合しかないように思う.
 統合の場合考えるべきは,同じ立場(規模)の大学の合併だと合併後が落ち着かないことである.嫌かも知れないが大きな大学に吸収されるのがよい.できれば既に第2グループにある大学に吸収されるのが手っ取り早い.埼大の近くにある第2グループの大学とは,千葉大,筑波大,東工大,早慶と日大である.
 第3グループと合併しても第2グループになれるかも知れない.埼大の近くの第3グループの大学とは,群馬大学,東京医科歯科大,東京農工大,私大でよければ東京理大である.医系大学でよければ北里,順天堂,東京女子医大があるけれど,ちょっとピンと来ないだろう.
 第2は強みを強化することである.実際に常勤のポストを強みとなる分野に再配置する必要がある.同研究所の資料では,埼大は基礎生命科学分野がやや強いことになっている(私には確認できないが).もしそうなら,単にその分野を重点領域とよぶだけではなく,ポストを付けて行く必要がある(既にやっているかどうか?).
 強みを強化するためにも,大学の規模が大きい方が有利なのは明らかである.かつて群玉統合が話題になったときにも,統合の利点は強みの強化に使える資源を確保することにあった.
 と書いてみたが,この程度のことは誰でもいえることであるから,わざわざ書くべきだったか,と疑うべきかも知れない.しかしここで書いた類のことを戦略として練ることは,埼大の経営者に必要なことであり,既にやっているなら幸いだ.

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