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東工大と医科歯科大の統合協議,と聞いて思うアレとコレ

 たぶん昨日(2022/8/8)辺りからと思うが,東工大と東京医科歯科大が統合協議を始めることに合意したというニュースが流れた.国際卓越研究大学への指名を目指すためという憶測も書いてあった.
 このニュースを眺めてあれこれと,自動思考で私の脳裏に巡った点を書いてみよう.むろん私にいえるのは,誰でも思いつく程度のことである.両大学について私に特段の情報はない.

1.統合の成否は分からない

 東工大のサイトには学長が教職員向けに行った説明の文章が載っている(https://www.titech.ac.jp/news/2022/064662).ご覧のようにごく一般的な理念をいっている.締めの言葉は次のごとくである:≪最終決定は今後の両法人における協議に委ねられており、現時点では何も決定したことはありません。今後、本法人内でもより多くの構成員の意見を聞きながら集中的に協議を進めて参ります。≫ だから現時点では,埼玉大学と群馬大学が統合協議を始めるというニュースが出た時点と同じようなものである.これまで国立大学同士の統合がなった事例は,大学側が文科省に弱みを握られている場合か(?大学),強者が弱者を吸収し弱者もうれしい場合か(阪大が外大を吸収),行政が強く介入した場合か(大阪公立大学),アンブレラ方式で元の大学が維持される場合だけだった.静岡大学にいたっては,いったん静岡県立大学と統合するようなことをアナウンスしながら土壇場で統合を破棄し,浜松医科大学と統合するするといいながら,どうなるかはいまだにはっきりしない.今回の東工大と医科歯科大の場合はまだ何も決まっていない.単なるアンブレラなら簡単だが,それではあまり評価されないだろう.

2.国際卓越研究大学の制度運用開始にはたぶん間に合わない

 ニュースでは国際卓越研究大学への採択を狙っているという憶測が書いてある.確かに国際卓越研究大学への採択は背景にあるだろうが,卓越の制度運用開始時にこの統合が間に合うという訳ではないと思う.
 国際卓越研究大学のスケジュールは既に公表されている.対象大学の選定は次年度2023年度であり,その対象大学を卓越研究大学として制度運用を開始するのは2024年度である.だから制度運用開始時に統合は実現していないだろう.卓越研究大学が逐次的に追加されるとして,当該大学が卓越研究大学になるとしても,後のことだろう.
 両大学が統合の決定をすぐにするとは思えない.両大学が決定しても法改正が必要になる.すぐにはできないだろう.
 また,今の両大学の部局をそのままにして統合するとも思えない.評価される統合計画を持ってはじめて統合に意味が生じる.常識的には統合と同時に新部局(何らかの研究院)を作るとして,新部局には設置申請が必要になる.もし新部局を2024年までに発足させようと思えば,今まさに設置の申請書を書き始めなければならないだろう.2023年度に設置申請をして,2024年度から新部局発足である.まず無理と思う.
 また,新部局を作ったとしての,その成果を出すためには一定の時間がかかる.
 そう考えると,今回の統合協議は,少なくとも中期的な視点で行われるはずである.卓越研究大学の制度の運用が始まった後,追加で卓越研究大学に採択されることを狙うのだと思う.

3.ある意味「弱者連合」である

 メディアのニュースの一部にはこの東工大と医科歯科大の統合を「勝ち組連合」と形容することがあった.確かに一般の大学にとって,両大学とも勝ち組である.しかし両大学は,一般の大学は眼中にない.統合するのはあくまで,指定国立大学群内部での競争を想定したためだろう.その指定国立大学群の中では両大学とも弱者である.統合は強者,つまり東大,京大,東北大,阪大あたりに近づくための戦略と考えるべきだろう.
 指定国立大学は,一橋を除いて,当初の目標をクリアしている.したがって東工大も医科歯科大もしかるべき成果は示しているはずである.しかし,私は東工大は指定国立大学の中でもっと目立つ成果を出すと思っていたが,実際はそれほど目立たず,やはり旧帝大の上位には勝てていない.
 研究が盛んであることを一番示すのは,若手,助教クラスとか博士後期院生の中で優秀な人をどれほど揃えているか,だろうと思う.その若手を対象とした支援プログラムに,創発的研究支援事業や次世代研究者挑戦的研究プログラム,大学フェローシップ創出事業があり,このブログでも取り上げてきた.その支援事業の中で支援を獲得した数が多いのは,やはり旧帝の上位大学である.これらのプログラムで東工大は採択を取りやすいのではないかと思ったのだが,大学の規模を勘案しても,やはりそれほど目立たない.医科歯科大学に至っては採択数が一般大学並みである.だからまだ,ちょっと力が弱いのかな,という気がしていた.
 ちなみに,であるが,私は大学の規模を教員数で見るのがよいと思う.教員数で見ると,東工大は1050名(教員表には1105名と出ていたが,高校の教諭などは除いた),医科歯科大で847名である.この数は,埼大の教員数411名よりはずっと多いけれど,東大は3937名,東北大3203名,阪大3293名なのである.だから東工大と医科歯科が一緒になって,筑波大学くらいになると考えてよいだろう.単に一緒になっただけではまだ強者にはなれない.統合してどのような組織を作るかが重要になる.
 研究者ないし研究グループはある程度独立に,並列的に研究を行う.だから,その中から新機軸が生まれる可能性は,ある程度の規模があることで高まるのだろうと思う.

4.1つの注目点はリベラルアーツをどうするか

 先の東工大の学長説明の中に「さらにそこに両大学が重視するリベラルアーツの発想も活かすことで、社会の課題解決に直接貢献する新たな学術分野を生み出せるとの確信を持つに至りました。」という表現があったのが私の記憶に残った.東工大にはリベラルアーツ研究教育院という組織があり,教員表では51名の教員がいるらしい.もともとは教養部的な組織だったと思うが,今は部局化している.他方,医科歯科大は,国立大の中で教養部という組織を残した唯一の大学である(普通の医科大は医学部の中に教養の教員を含める).その教養部の教員数は30名弱である.
 もし統合を進めるなら,おそらくリベラルアーツ研究教育院と教養部を合体させ,より大きなリベラルアーツ部局を作って特別な役割を担わせるだろう,と私は予想する.どのような部局を構想し,何をさせるかは重要な工夫の対象であり,注目すべきだろう.

5.地方銀行,いや埼玉大学はどうすんの?

 政府の大学政策を見ていると銀行への行政指導と似ているなと思ったことがある.メガ銀行と地方銀行,その下の信用組合を分け,それぞれに役割を与える.実際,銀行はそのランクに応じて行動も違っている.都市銀行は自発的に統合による強化に走り,結果3つほどのメガ銀行が出来た.しかし,従来のビジネスモデルが成り立たないのが分かっているのに地方銀行は動きが鈍い.持ち株会社のような組織を作って銀行のアンブレラを作るのが精一杯なのだろう.同じように,上位大学は東工大と医科歯科大のように統合などの手を打ってくるようになるのかも知れない.他方,地方銀行のような地方国立大学は,18歳人口の低下とともに存立基盤が危うくなる可能性があるのは分かっていて,何もしない.いや実際,特に都市部に近い埼玉大学などは,巨大化した都内の私大に食われて行くにもかかわらず,特に動きもしないのではないのか?という気がしてくる.
 地方銀行はこれからバタバタ倒れて行くかも知れないのであるが,地方国立大学も同じなのだろうか,などと考えてしまう.
 埼玉大学も動くべきだろう.

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学生数の理系比率は上げられるか?

 このブログの少し前の記事で今年度の骨太の方針2022について触れた.その際に私が一番記憶に残ったのが,理系(自然科学)の学生の比率を上げる意向が書いてあることだった.あらためてその記述個所を探すと,次のごとくである.

現在 35%にとどまっている自然科学(理系)分野の学問を専攻する学生の割合についてOECD諸国で最も高い水準である5割程度を目指すなど具体的な目標を設定し、今後5~10 年程度の期間に集中的に意欲ある大学の主体性をいかした取組を推進する。

 理系の比率の5割程度を目指す目標を今後設定する(したい)という話であるから,実際にその目標を設定するかどうかも未確定なのだと思う.しかしそもそも,日本全体の学生比率をそれほど変えることが可能であろうか? 変えるとすれば具体的にどうするのか?という疑問が残る.

日本の学生数の分野別比率

 学生数に関する統計は文科省が毎年度行っている学校基本調査に掲載されている.あらためて,その学生数の令和3年度の確定値をネットで調べてみた.
 まず設置形態別(国公私立)の比率をまとめると次の図1のごとくである.この比率は人が抱く直感に近いだろう.学生の78%は私立であり,日本の大学生の大多数は私大生である.このことから考えると,国公立大学をいじっても全体の比率に影響はほとんど与えないことが分かる.

220807fig1

 設置形態を通して学生の分野別比率を求めると図2のようになる.よく文系vs理系で考えるが,実は文系とも理系ともいえない分野も存在する.ここでは,文系,理系,教育系,家政学,その他に分けてみた.

220807fig2

 骨太の方針2022では,理系の現在の比率を35%と書いていた.図2では34%である.ほぼ同じといえるが,実はどのように分類するかによって変わってくる.
 教育学部は,文系vs理系で分けるときは文系に入れることが多い.しかし理数などの教員養成をする部分は明らかに理系であり,学部全体で文理の別をいうことは難しい.ここでは教育系は文系,理系とは別として考える.なお体育系はほぼ,この教育に入っていると思う.
 家政学は,英語では Home Economics であるので,文字面では文系である.しかし中身は理系的なものが多い.そこで家政学も文系,理系別にした.
 「その他」に以下を含めた.芸術(計,音楽美術等),その他-総合科学,その他-教養課程(その他),その他-その他,である.
 あらためて,「文系」には次を含めた:人文科学(計),社会科学(計),その他-教養学関係,その他-教養課程(文科),その他-人文・社会科学関係,その他-国際関係学関係,その他-人間関係科学関係.
 「理系」は次の合計である:理学(計),工学(計),保健(計,医学など),商船(計),その他-教養課程(理科).
 このように分類したとき,全体の48%は文系であるから,教育系などを含めると,実質は過半数が文系学生であることになる.
 また,文系の中で「社会科学学生数/人文科学学生数」の比をとると,全体で2.3,国立と公立で2.1,私立で2.3となる.つまり社会科学学生は人文の2倍強になる.

国立大学の学生の分野

 学生全体の17%に過ぎない国立大学の分野別分布を次の図3に示す.予想通り理系が一番多く,全体の学生数の半数を超える.文系は理系の半分以下になる.教育の学生数は文系全体の半分を超え,公立や私立の場合より教育の学生の多さが国立で目立つ.教育の学生の大半は教員養成課程だと思う.教員を採用するのは地方自治体であるから,教員養成課程を持つのが公立大ではなく国立大であることは妙な話だとあらためて実感してしまう.

220807fig3

公立大学の学生の分野

 公立大学学生の分野別の分布は,上記の国立大と次の私大の中間的な傾向を示す.「その他」に入る芸術関係の比率,「保健」の中の看護系の比率が国立や私立より多い.

220807fig4

私立大学の学生の分野

 私大は半数超が文系であり,教育や芸術系なども文系色が強い.だから私大は文系中心の構成である.他方,私大の理系は私の直感的予想よりも高かった.地方には〇〇工大や日大の工学部など,工学系は実は多い.それらの工学系は地域の人材養成に貢献している.その点が私の予想以上に理系が多かった結果になっているのだろうと思う.

220807fig5

理系学生比率の増大は可能か?

 理系の学生比率を上げることは明らかに困難である.具体的なプロセスを想定して骨太方針に「5割への増大を目指す」旨を書いた訳ではないだろう,と私は思う.
 まず,権限からいって,政府が直接指揮できるのは設置者が国である国立大学しかない.しかしその国立大学は全学生の17%を収容するに過ぎない.仮に国立大学の文系学生をすべて理系に転換するという極端なことをしたとしても,全学生の4%程度しか理系学生は増えない.実際はどんなに頑張っても文系学生の1/3程度を理系に転換できる程度だろう.もともと国立大学,特に地方国立大学では文系比率は低い.今以上に文系を減らした場合,当然教員も減る訳であるから,国立大学の文系は部局として意味をなさなくなる.同じく骨太の方針に書いた「文理横断的な大学入学者選抜や学びへの転換を進め、文系・理系の枠を超えた人材育成を加速する」ことも不可能になる.
 学生の理系比率を全体で上げるためには私大を動かすしかない.しかし私学にとって文系,特に法経分野は,少ない投資で学生納付金を集める最重要部分である.そういっては悪いが,伝統的には,法律経済系は授業の多くが大教室授業であり,芋を洗うような教育をするのが常だった.だから設備の経費も少なく経営上はコスパがよい.だからあえて文系を減らすことは自発的にはしないだろう.

具体的に取れる方策

 政府が取るべき政策として私の念頭に上るのは次である.
 第1は経済を成長軌道に乗せることである.そのために(今のように)需給ギャップがあるときはギャップを埋める財政出動をし,インフレ率に応じて金融政策を継続し,規制緩和をしてイノベーションを起こしやすくすることである.そうでないと技術革新に挑戦する企業は限られるし,大学が輩出した人材の雇用も確保できない.成長のための政策をとらずに理系比率を上げることは考えるべきではない.
 第2は,本当に理系人材への需要が見込めるなら(政府の需要予測は普通外れるが),国立大学の交付金なり私学助成金のうち,理系分を割増しで配分することである.理系は経費がかかるので,理系を増やしたい大学も増設を抑制してしまう可能性がある.理系補助の割増しでインセンティヴをつけることで,国立にしろ私立にしろ,新設の部局を理系にする可能性は高い.
 第3は,理系部局の新設を政府が直接行うことである.政府主導で可能なのは国立大学においてになるだろう.もともと日本では研究成果の低下が問題になっていた.研究成果(論文数)を説明する最大の要因は,豊田長康先生の以前の分析では,研究者数だった.研究者数が多いから研究成果が出るという,当たり前の話である.実は論文数の停滞が話題になっていた時期,研究者数は先進国に比して横ばいに過ぎず,フルタイム換算の研究者数にいたっては低下していたのである.本気で科学技術の研究成果を上げるなら研究者数そのものを増やすことは考えるべきことなのだ.研究者増への投資は公共事業のコスパ基準を軽くクリアするはずである.
 以上の方策が望ましいと思うけれど,政府はまあやらないかな,という気がする.代わりに政府がやりそうなことは次の2つかなぁ,と思う.
 第1は,私学に対し,新設は原則理系以外を認めない,とすることである(国立では原則新設なしが続いている).政府が民間の大学に対してこのような政策をとることは,専制国家的ないし社会主義的であり,自由主義の下では望ましいことでないように私は思う.
 第2は,政府が国立大学に対し「理系イニシアティヴ・プログラム」みたいな感じの公募計画を提示し,多少の新設ポストを餌にして,文系から理系への学生定員・教員の転換を求めることである.多少の新設ポストに目がくらんだ大学は学内の文系を理系に転換する計画を作るかも知れない.ただ,既に雇用した教員の首を切らないという従来の慣行を維持するなら(維持することになると思うが),この種の転換は完成年度が長くかかるので,退職者で空きポストを多くひねり出せる大大学を除いては,計画の作成は難しいだろう.
 と書いてみたけれど,「政府は結局何もしなかった」というのが,一番ありそうなシナリオのような気がする.

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